ポケットモンスターやスプラトゥーンなどの人気タイトルでもよく知られる任天堂ですが、国内の上場企業約4,000社のうち、ネットキャッシュはぶっちぎりの1位となります。

国内ネットキャッシュが豊富な銘柄
社名 ネット
キャッシュ
(億円)
現預金
(億円)
短期
有価証券
(億円)
有利子
負債
(億円)
任天堂17,10812,0655,0430
信越化学14,05611,1273,233304
楽天G12,88544,1032,81134,029
ファストリ11,17213,58202,410
キーエンス10,0454,6425,4020
参照:東洋経済オンライン

ネットキャッシュとは、企業が保有する流動性の高い資産(現預金や有価証券)から返済義務のある有利子負債を差し引いた金額です。ネットキャッシュが豊富な企業ほど自由に使える金額(手元資金)が大きくなるため、キャッシュリッチ企業と言われます。

ネットキャッシュを大きくするためには、営業活動から得られるキャッシュフローと投資活動から得られるキャッシュフロー、金融機関からの借入で得られる財務キャッシュフローのいずれかを拡大させる必要がありますが、直近5年間の任天堂はすべてを営業活動からキャッシュを作り出すモンスター企業です。

任天堂
出典:IRBank


ゲーム会社の自己資本比率

企業経営の観点から見ると、ネットキャッシュが豊富であれば、普通はお金を誰かに貸し付けることで金利収入を得たり、次のビジネスにつなげるため設備投資や研究開発費に大きなお金を流していくことが常套手段です。

ですが、任天堂を含め、他のゲーム会社も同様に手元資金を無理に切り崩すことはしていないんです。

国内ゲーム企業(23年3Q決算)
社名 純資産
(百万円)
自己資本比率
任天堂2,173,05878.0%
ネクソン165,91087.6%
バンダイ641,07170.6%
カプコン147,71579.5%
スクエニ314,40478.4%

自己資本比率は業種によって異なりますが、全業種の平均を見ると、約40%が水準と言われています。

その全業種平均より2倍程度も高いゲーム企業の自己資本比率は異常であると気づけるはずです。


自己資本を切り崩さない理由

手元のキャッシュを多く保有する理由はいくつかあり、企業の経営戦略によって理由は異なりますが、考えられる理由の1つに作品やコンテンツの寿命が関係していると思われます。


たとえば、最近最も流行った日本のゲームアプリとなる「ウマ娘」を生み出したサイバーエージェントのゲーム事業を見て見ましょう。

サイバーエージェント
出典:サイバーエージェント

ウマ娘登場前の売上高は300億円から400億円付近を推移していましたが、ウマ娘リリース後は2倍以上となる923億円の売上となるものの、その後は人気タイトルが続かず、売上は2年も経たずに元通りへと戻ってしまいました。

これらの傾向はミクシィがリリースした「モンスターストライク」、ガンホーからリリースされた「パズドラ」も同様の傾向があります。

ゲーム業界というのは、ヒット作を延命させることと、出し続けることが非常に困難です。

ヒット作が出るまでの期間がどのぐらいかかるのか見えないため、ヒット作を出すまでの期間に必要な研究開発費や人件費などのコスト負担を担保するための資金が必要になります。

もしヒット作が出る前に資金が枯渇してしまうと、面白い企画よりコスパ重視のコンテンツを優先してしまったり、少ない予算ではヒット作が作れずに倒産してしまうリスクが大きくなります。

言い換えれば、任天堂がポケットモンスターやSwitch、ゼルダの伝説など次々とヒット作を生み出せるのは、潤沢な手元資金があり、余裕を持って作品の制作に取り組めるからとも言えます。

ゲーム企業にとってネットキャッシュを蓄えることは経営戦略的にも大事なことの1つです。