2022年イグノーベル経済学賞
去年1.2万回もリツイートされた以下のツイートが面白かったので、紹介します。
2022年のイグノーベル経済学賞の「成功するのは才能ある人ではなくただ運のいい人であることの数学的説明」が超おもしろい。この通りならば自分に才能があるかを悩む必要はないし、成功した人(≒運のいい人)に嫉妬したり過剰に持ち上げたりする必要もないことになる。少し気が楽になる研究。
— 佐藤航陽 🌎 著書「世界2.0 メタバースの歩き方と創り方」 (@ka2aki86) September 26, 2022
今回は2022年のイグノーベル経済学賞となった論文「Talent vs Luck: the role of randomness in success and failure(才能と運:成功と失敗のランダムな役割)」をわかりやすく簡単に解説していこうと思います。
才能は大多数に存在する
この論文では様々な検証が行われていますが、一部分だけを抜粋して簡単にお伝えします。細かく理解されたい方は実際の論文をご覧ください。
まず人の知能や能力などの才能は、以下の正規分布によって出現するとされています。

縦軸が人数、横軸は才能(能力)を意味し、才能が中程度となる人が最も多く、才能が極端に低い人と高い人は少ない傾向があります。
例えば、学力テストで30点以下もしくは80点以上の点数を取る人は一部に限られますが、31点以上79点以下に収まる人が大多数となる現象も同じ理論で説明がつきます。
アドバンテージを抱えた子やギフテッドと呼ばれる子が少ない理由も同じで、大抵の人はビジネス、スポーツ、芸術、化学、金融取引などにおいて平均的な才能を持っています。
この事実をうまえた上で、次は成功者の分布を見ていきます。
少数の成功者が富を総取り、大多数は小さく成功
以下の図は縦軸が人数、横軸が40年の労働した後の保有資産です。この実験での成功とは、経済的な成功(富、保有資産)とします。

グラフを見ると、小さい成功をしている人の数が最も大きく、大きな成功をする人ほど人数が小さくなる傾向があります。
多くの人が知っているかもしれませんが、富というのはイーロンマスクやビルゲイツなど、TOP1%の富裕層が大半を保有しています。
2022年時点では、TOP1%の富裕層が世界の3割以上の富を保有し、下位50%もの人口が保有する資産は世界全体の5%以下です。

日本のデータを見ても、それは同じ傾向があります。

一握りの富裕層が大きな資産を保有しており、大抵の人はほとんど資産を持っていません。マス層を含めた全国の家計資産を比較すると、中間層が少なく貧困世帯と裕福世帯が大きい構造をしています。

金融資産を持ってない世帯が25.8%と最も多く、次いで多いのが3,000万円以上の金融資産を持つ世帯です。
成功とは、一握りの人だけに出現し、それ以外の人にはほとんど現れない、もしくは小さい成功しか掴めない傾向にあります。
成功と才能に相関はない
ここまでのデータを重ね合わせると、才能と成功にはほとんど相関がないことがよくわかるはずです。
相関があるのであれば、才能を持った少数は大きく成功し、中間層では中程度の成功が量産され、成功しない人はごく少数となるはずです。
本論文によると、大成功した人の多くは才能に恵まれてたわけでもなく、中間層の人が最も大きく成功しているという説明されています。

上記(b)は縦軸が成功の大きさ、横軸が才能の大きさを表しますが、最も大きく成功しているのは、才能がある人より中程度の才能の人が大きく成功していることがわかるはずです。
つまり、成功と才能には相関がありません。
まとめ
私たちは成功者の成功要因をすぐに「人一倍努力したから」「思考能力が優れているから」と簡単に結論づけてしまいますが、本研究によると、成功するために最も重要なのは「運(ラッキー)」ということです。
恵まれた環境や生まれた時代、偶然出会った人とのつながりなどの運によって形成されるため、その人が成功した後にいくら「私には才能があった」「努力した」と主張しても、再現性の高い成功事例とならないのは、運で成功したからです。
それが運ではないのなら、今の日本に孫正義や柳井正のような億万長者がもっと量産されなければ説明がつきませんし、偉大な経営者の息子や孫が成功しない理由も同じだと思います。
SNSでも資産数億円、月収数百万円のインフルエンサーに注目が集まり、彼らの考え方やメソッドをありがたく受け取る人が大半ですが、その思考方法を完全再現できたとしても自分自身が成功できるかは、ほとんど関係ないと理解することができれば、私たちはもっと自分のことを考える機会が増える気がします。
他人の成功に惑わされる人が減ると良いなと思います。