1億円の壁とは
1億円の壁とは、年収1億円を境に所得税率が下がって見える(1億円以前と以降で壁があるように見える)現象のことを意味しています。
1億円の壁(所得1億円を超えると所得税負担率が下降する現象)。原因は株取引きの軽減税率。このグラフを独自に作成し国会で初めて質問したのは08年3月参院予算委員会。以来、何度も税率引き上げを求め10→20%に。しかしまだ低い。岸田新首相は見直すと言ったが煮え切らない。さっさと決断せよ。 pic.twitter.com/Djf98mE2qj
— 大門実紀史(だいもんみきし) (@mikishidaimon) October 5, 2021
1億円の壁のグラフ
出典:大門実紀史氏のツイートより引用上記資料によれば、年間100億円稼ぐ人が年収1億円の人よりも税率が低いことが不公平だと主張されていますが、本当に不公平なのでしょうか。まずはグラフの仕組みを解説していきます。
1億円の壁の嘘
先ほど紹介した「1億円の壁のグラフ」の横軸となる年間所得とは、給与所得と金融所得(譲渡取得・配当所得)の合算です。
給与所得とは、会社員が毎月安定してもらえるお給料やボーナスのこと。そして給与所得にかかる税率は所得税以外にも社会保険料やその他様々な控除(減税施策)がありますが、ここでは所得税と住民税10%だけを合わせると、年収額に応じて最低15%から最大55%までかかります。
対して金融所得とは投資で得られる利益のことです。投資で得られる譲渡益や配当収入に関する税金は利益額に関係なく一律20.315%(所得税15%、住民税5%、復興税0.315%)と決まっています。

1億円の壁に書かれている所得額は「労働で稼いだ利益と投資で稼いだ利益にかかる所得税率だけを一緒に計算している」というカラクリがあります。
金融所得は安定しない
労働収入は比較的安定して毎月、毎年同じ額を貰うことができますし、大抵の人は年齢やキャリアに応じて年収がUPしていくはずですが、投資で得られる利益は毎年安定することはありません。
毎年1億円以上稼ぐとなれば、毎年1.2億円以上の株式を売却するか、配当利回り2%の株式を60億円分も毎年保有しなければいけないからです。それは相当ハードルが高いことだと誰でもわかります。
株式投資で言えば、リーマンショックやITバブル、最近で言えばコロナショックなどで株価が暴落することが何度となく起こり、場合によっては今まで貯めてきた資産がたった1年で半分に減ってしまったり、多額の税金を納めた後、残った利益で損失を出しても3年以上経過していると支払った税金は戻ってこず、手元には損失だけが残ってしまうこともあります。
投資で1億円以上の利益を稼げる人というのは毎年入れ替わりますし、毎年1億円以上稼げる投資家は日本全体の0.03%もいません。国税庁が発表する令和2年度の所得階級別人員(他の区分に該当しない所得者)の数を調べたところ、1億円以上の人数は28,926人でした。
その約3万人の納税者は長年温めてきた利益をたまたま令和2年度に確定しただけであり、令和3年、令和4年も同じ額を投資で稼げるわけではありません。1億円以上の高額納税者はほとんどの場合毎年入れ替わっていると考えるべきです。
所得税以外の税金
1億円の壁のグラフにある赤い線(所得税負担率)は、あくまで所得税だけを意味しています。納税者は所得税以外にも課税所得に対して住民税を支払わなければいけません。
出典:大門実紀史氏のツイートより引用100億円の高額納税者は15%付近の所得税負担率となっていますが、実際はそれに加えて給与所得部分では+10%の住民税、株式所得の部分には+5%の住民税を支払う必要が出てきます。それ以外でも不動産を持っていれば固定資産税がかかるなど、資産を稼ぐ上では見かけ以上のコストがかかってきます。
1億円の壁のグラフのように年間100億円稼ぐ人の税金は15%程度には収まりません。最低でも20%以上は利益から税金が持っていかれる計算となるのが今の日本です。
富裕層税の弊害
米国でも富裕層への税率引き上げの検討は進んでおり、これを受けてテスラCEOのイーロンマスクは保有株10%相当(約1.8兆円)のテスラ株を2021年末までに売却しました。
日本でも金融所得課税の引き上げが検討されていますが、そのようなことが起こると、資産家の再投資効率(税金を引いた後の利益を再度投資する金額)が低くなってしまうため、株価が成長しづらくなってしまいます。
投資家によってはイーロンマスクのように大量保有している株式を一気に売却したり、株式投資を嫌煙してしまう可能性もあります。すると、投資家全体の利益も小さくなってしまうため、富裕層への税金を引き上げることは庶民の投資家にとっても良い話ではありません。
まとめ
ここまでの話をまとめると、以下の通りです。
- 1億円の壁は労働収入と投資の利益を混ぜて計算している
- 1億円以上の金融所得は毎年稼げない
- 所得税以外の税金が加味されていない
- 富裕層税の引き上げは庶民にも悪影響を及ぼす
1億円の壁はあたかも富裕層が得をしているような主張がされますが、労働収入であれば住民税を合わせると最大55%まで税金が課税されますし、投資の利益であれば誰でも一律20%程度の税金は国に課税されてしまいます。むしろ富裕層が税金を払いすぎているとも言える状況で、課税を強化すべきだという主張は難しいのではないでしょうか。