Twitterを見ていると雇用統計の速報値について多くの「いいね」が集まったり、その数値を分析するツイートがたくさん拡散されていると思います。



雇用統計とは、そんなに大事な数字なのか?

なぜ投資家は「雇用統計」の数字に注目するのか、今回は出来る限りわかりやすく解説していきます。


雇用統計とは

雇用統計とは、米国労働統計局から毎月第1金曜日に発表される「労働市場を把握するための経済指標」です。

テレビのニュースやSNSで取り扱われる雇用統計は「失業率」「非農業部門雇用者数」がほとんどですが、実際の雇用統計はもっと多くの種類が存在しています。

雇用統計一覧
出典:米国労働統計局

A-1〜A-16、B-1〜B-9までの合計25種類のデータが毎月更新され、日本語にすると、以下のようなリストとなっています。

【雇用統計の種類一覧】
    A-1. 民間人の雇用状況(性・年齢別)
    A-2. 民間人の雇用状況(人種・性別・年齢別)
    A-3. ヒスパニック系またはラテンアメリカ系住民の雇用状況(性・年齢別)
    A-4. 25歳以上の民間人の雇用状況(学歴別)
    A-5. 18歳以上の民間人の雇用状況(退役軍人の地位、兵役期間、性別)
    A-6. 民間人の雇用状況(障害の有無別)
    A-7. 民間人の雇用状況(出身地)
    A-8. 労働者階級別雇用者数およびパートタイム状況
    A-9. 雇用に関する主な指標
    A-10. 季節調整済の選択された失業指標
    A-11. 失業の理由別失業者数
    A-12. 失業者数:失業期間別
    A-13. 職業別雇用者数および失業者数
    A-14. 産業別・労働者階級別失業者数
    A-15. 労働力不足の代替指標
    A-16. 非労働力人口および複数就業者数(男女別)
    B-1. 産業部門別非農業部門雇用者数および特定産業詳細
    B-2. 民間非農業部門給与支払者全従業員の週平均労働時間および時間外労働時間(産業部門別)
    B-3. 民間非農業部門雇用者全員の平均時給および週給(産業部門別)
    B-4. 民間非農業部門における全従業員の週次労働時間および給与総額の指数
    B-5. 非農業部門雇用者数における女性雇用者数
    B-6. 民間非農業部門雇用者数における生産職および非管理職の雇用
    B-7. 民間非農業部門雇用者における生産および非管理職従業員の週平均労働時間および時間外労働時間
    B-8. 民間非農業部門給与支払者における生産および非管理職の平均時給および週給
    B-9. 民間非農業部門雇用の生産及び非監督業従業員の週労働時間及び給与総額の指数


「失業率」と「非農業部門雇用者数」が重要

雇用統計で「失業率」と「非農業部門雇用者数」が注目される理由は、個人消費への影響度合いが高いことに加えて、米国の政策金利を決めるFRB(連邦準備理事会)が重要視しているからです。


米国は世界最大の経済大国であることは有名です。


世界のGDPランキング(2021年)
国名 年間GDP 人口
米国$22,996,100M329,770,000
中国$14,866,740M1,414,350,000
日本$5,045,100M125,836,021
ドイツ$4,222,972M83,155,031
フランス$2,937,373M67,656,682
英国$2,709,680M67,025,542
インド$2,660,240M 1,380,004,385
イタリア$2,106,650M59,236,213
カナダ$1,644,040M38,246,108
韓国$1,638,260M51,781,000


【GDPとは】
    GDP(国内総生産)とは、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値のこと。
    たとえば、国内企業が1億円の売上を上げれば、GDPは1億円プラスになります。逆に国内企業が海外支店で同じ1億円の売上を上げても、GDPは1円もプラスになりません。
    GDPが高いほど、その国では企業と個人、もしくは企業や個人同士でのモノやサービスの交換(取引)が多く行われてることを意味します。
    一般的には「GDP = その国の経済規模」と考えられています。

世界最大の経済大国である米国のGDP(国内総生産)の内訳を見ていくと、多くは個人消費で占められています。

米国GDP
出典:FRED

それぞれの色が何を示しているのか、以下にまとめました。

【グラフの見方】
    青:個人消費
    緑:政府支出
    紫:民間投資
    赤:純輸出

グラフを見て分かる通り、米国のGDPの大部分を占めるのが、青いグラフの個人消費です。


個人消費とは、家計から出る支出のことです。どの国でも大抵は個人消費が大半を占めますが、米国でも個人消費はGDPの約7割を占めており、米国経済は個人(家計)からの支出によって成り立っています。


話は戻りますが、個人消費は労働者の数に影響します。

失業者が増えれば個人消費は停滞しますし、労働者が増えれば賃金も上昇しやすく、個人消費は拡大します。

FRBが雇用統計を重視する理由ともつながりますが、雇用統計が改善もしくは悪化することにより、経済は以下のように連動すると言われています。

雇用統計と株価への影響


FRBの金融政策

日本では国民の労働を守る役割は企業が担っていますが、米国では政府が国民の労働を守るのが古くからの慣習です。


米国では雇用者数が落ち込んで大量の失業者が出た場合には政府が率先して対応してきた歴史がありますし、労働市場が回復して景気が好転すれば増税や金融引き締めなどによって景気を落ち着かせることも米国では積極的に行われます。

失業率とFFレート
出典:FRED

上記の青線が米国の政策金利(FFレート)、赤線が失業率です。失業率が急激に上昇後、政策金利が毎回下がっているのがわかりますでしょうか。そして、失業率が落ち着いてきたと同時に政策金利を上げていることも確認できるはずです。


政策金利と株価

政策金利の上昇局面では、株価が一時的に下がる傾向もあります。

S&P500とFFレート
出典:MacroTrends

政策金利が上がると銀行は企業にお金を貸し渋り、企業の設備投資が滞ると言われています。すると、企業はお金を集められないので先行投資することが前よりも厳しくなり、成長率が下がっていくという仕組みです。

そのため金利を上げ過ぎると、企業の業績見通しが悪くなり、株価も低迷しやすくなります。

このような一連の流れを把握するために、投資家は雇用統計に注目します。


雇用統計と株価

雇用統計が発表された後、すぐに株価がどうなるかを予想する投資家が少なくありません。

注意点としては、まず発表される雇用統計の速報値は先月の結果であり、リアルタイムの数字が発表されるわけではありません。加えて、雇用統計の数字が悪くなった時(会社が従業員を解雇した時)というのは、大抵の場合、会社の業績見通しが悪くなった後です。

企業がコストを抑える際、まず先に取り組むのは広告などの販促活動や設備投資です。従業員の給料を下げたり、解雇の決断は大抵の場合最終手段となることが可能性として高いとされています。

その意味では雇用統計が発表された後では、企業業績の見通しを投資家が織り込み済みの可能性も高いということにもなります。

ということは雇用統計の後すぐに株価を予想するのではなく、米国政府がどう動くのかを予想しつつ、それに株価がどう反応するかを長期的に考える方が賢明だと思います。


まとめ

今回の記事の要点をまとめると、以下の通りです。

【雇用統計のまとめ】
  • 失業率と非農業部門雇用者数が重要
  • 労働人口は個人消費に影響する
  • FRBは雇用統計も注視
  • 金融政策で株価は一時的に動く
  • 株価より遅く反応する場合あり

雇用統計は今後の米国経済(その中でも個人消費)の見通しを予想するのに役立ちます。

FRBの金融政策や将来の株価変動にも準備することができるようになるでしょう。

だから多くの投資家が雇用統計に注目します。


ただし、短絡的な判断をせず、相場を長期的に見ていく視点も忘れてはいけません。

余裕を持って投資を続けていくためには、雇用統計以外の数字にも注目しておくことも必要です。