誰もが投資家

金融所得課税が話題になる度に、「1億円の壁」「累進課税」「お金持ちへもっと課税すべき」など、金融所得課税がまるで富裕層だけに向けられた罰則のような言い方がされますが、実際にはそうではありません。

日本の投資人口は推定2,696万人と言われており、20歳以上の成人4人に対して1人が投資信託もしくは株式を保有しているそうです。


そして投資家は少数派だと考える方でも、見方を変えれば日本人のほぼ全員が投資をしている状況があります。

間接的にではありますが、私たちが労働で稼いだお金は強制的に投資に回されており、その運用結果がよければ自分たちの利益が増える仕組みがあります。今回はそれを紹介します。


年金は株と債券で運用される

それを裏付けるのが年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の存在です。

日本人は20歳になると年金手帳が支給され、60歳になるまでの約40年間も年金保険料(会社員は厚生年金、自営業の方は国民年金)を払い続けます。

その私たちが支払っている年金はGPIFが国内外の株式や債券などを利用して堅実に運用をされているんです。

GPIFポートフォリオ
参照元:GPIF

2021年度2Qまでの運用実績を見ると、運用資産額は194兆円。

2000年から2021年2Qまでの約21年間で儲けた金額は102兆円にも上ります。

GPIF運用成績
参照元:GPIF

私たちが支払った年金でGPIFは100兆円を超える利益を出しており、この利益が将来の年金の財源となります。


年金は減り続ける

年金には所得代替率という計算式があり、年金を収めた額に応じて国民に年金が支払われます。

しかし、昨今の少子高齢化によって、支払われる年金額は年齢が若い人ほど同じ年金額を支払っても、将来受け取れる年金額(所得代替率)は徐々に減らされていくというのが現状です。

正確な所得代替率の計算式を無視して簡単に説明すると、例えば、現在65歳で生涯年収400万円だった人が80歳までに1,000万円の年金を受け取れると仮定します。20年後に65歳になる生涯年収400万円の人は、現状の日本では1,000万円ももらうことはできません。同じ年金額を支払い続けたにも関わらず受け取り総額が950万円や900万円しかもらえないということが今の日本で起きているんです。

同じだけ稼いで、同じだけ年金を国に収めてきても、最終的に国から還元される年金額は昔よりも少なくなるというのが日本の実情です。

この年金がどんどん減っていくことを遅らせるのが、GPIFの運用成績になります。

GPIFの運用成績が良いほど私たちの年金は減らされなくて済みますし、運用成績が悪く慣れば受け取れる年金はもっともっと減っていくということになります。


金融所得課税の弊害

そして本題に戻りますが、金融所得課税というのはGPIFの運用成績を悪化させる要因の1つになりえます。

なぜ悪化させるかというと、金融所得課税を実施すると株式や債権で儲ける富裕層が税金を支払うために自分の資産を切り崩し始めます。

すると、それが売り圧力になり、関係のない個人投資家も株式を売り始める可能性が高くなります。


米国では富裕層に対する課税問題がバイデン政権から主張されるようになり、先日はイーロンマスクが所有するテスラ株を売ったところ株価が11%も下がる売り圧力となりました。


日本でも同じようなことが起きる可能性がありますし、金融所得課税によって投資に積極的な人が減ったり、企業の資金調達が遅れることになるので、それによって日本経済の成長がさらに鈍化して国民が貧しくなっていく可能性もあります。

つみたてNISAやiDeCoなどの非課税制度があったとしても日本の株式市場では老後資産を用意することも難しくなっていくかもしれません。

金融所得課税はお金持ちにだけ不利な状況をもたらすものではなく、日本の株式市場、ひいては日本経済に悪い影響を与えかねない政策です。

日本経済がデフレで悪化している中で実施すれば、その結果は火を見るより明らかだと私は思います。


以前、金融所得課税について書いた記事もありますので、宜しければ合わせてご覧ください。